「バイタルが正常だから安心」。これ、ERではいちばん危険なフラグです。
新人のころの私は、血圧の数字だけ見て安心するタイプでした。上が120あれば「よし、落ち着いてる」。モニターの数字が守ってくれている気がして、そこで観察が止まっていたんです。
いま思えば、いちばん見るべきものを見ていませんでした。
血圧が下がるのは「最終段階」
人の体は、よくできています。出血しても、感染が進んでも、しばらくは心拍や血管の緊張でなんとか血圧を保とうとする。これが代償です。
つまり、血圧が下がったときには、その代償が尽きたあと。数値が崩れてから動くのでは、もう遅れているんです。ERの看護師が本当に見ているのは、数値が崩れる前の「代償期のサイン」のほうです。
数字が正常でも拾えるサイン
私が意識しているのは、この5つです。
- 呼吸数が20回/分を超えている(いちばん重要。そして、いちばん省略されがちな項目)
- なんとなく生あくびが多い
- 返答がいつもより0.5秒遅い(感覚的なものですが、侮れません)
- 爪を押したあとの赤みが、2秒以上戻らない
- 「なんか変」という直感
呼吸数を最初に挙げたのには理由があります。体が苦しくなったとき、最初に動く数字が呼吸数だからです。血圧より、脈より、先に変わる。なのにバイタル測定で唯一「測らなくても書けてしまう」項目でもあります。昔の私も、正直ちゃんと数えていませんでした。耳が痛い話です。
「血圧は正常ですが、怪しいです」と言っていい
このサインがひとつでもあれば、医師に報告して構いません。「血圧は正常ですが、怪しいです」。この一言でいいんです。
数値の異常が揃ってから報告するのは、誰にでもできます。揃う前に「怪しい」と言えるのが、そばで患者さんを見続けている看護師の強みです。診断をつけるのは医師の仕事ですが、その判断材料をいちばん早く届けられる場所に、私たちは立っています。
正常なバイタルは「安心の証明」ではなく、「代償がまだ効いている」というだけかもしれない。そう考えるようになってから、モニターの数字より先に、患者さんの顔を見る癖がつきました。
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参考文献
- 救急看護領域の標準的教科書における、ショックの代償期と急変予兆に関する記載