「敗血症はとにかく早く抗生剤を」って、救急ではよく言います。なんでそんなに急ぐのか。新人のころの私は、正直、言われるままに準備していただけでした。
腑に落ちたのは、先輩に「火事だと思え」と言われたときです。
血の中で、火が同時に燃え始めている
敗血症は、細菌が血液に入って全身に回っている状態です。イメージは火事です。
家のあちこちで、小さな火が同時に燃え始めている。最初はボヤでも、放っておくほど燃え広がって、消すのが間に合わなくなる。そうやって臓器が一つ、また一つと止まっていく。腎臓が、肝臓が、肺が。火の回った部屋から順に、使えなくなっていく感じです。
抗生剤は、その火を消しにいく水です。ボヤのうちにかければ、少ない水で消せる。燃え広がってからでは、同じ量では足りないし、焼けてしまった部屋は戻らない。だから「早く」なんだと、ようやく分かりました。
「あとで」が効かない病気
普通の感染なら、少し様子を見てから、という判断もあります。でも敗血症は、その「あとで」が効きにくい。待っている間に燃え広がるからです。抗生剤を始めるのが遅れるほど、状態が悪くなりやすいとされています。
だからこの病気は、時間そのものが敵になります。検査の結果が全部そろうのを待っていたら、火はもう次の部屋に移っている。疑った時点で動き始める必要がある病気です。
看護師が縮められる「時間」
どの抗生剤を、いつ始めるか。それを決めるのは医師です。私たち看護師にできるのは、その決定が実行されるまでの時間を削ることです。
血液培養の準備をすぐ出せる形にしておく。ルートを確保しておく。指示が出た薬を、遅れずに投与できるよう手元を整えておく。医師が「これでいこう」と言った瞬間に水をかけられる状態を、先に作っておく。地味ですが、この数分が予後を変えると思うと、手が速くなります。
火事は、消すのが早いほど被害が小さい。敗血症を前にすると、いつもそのことを思い出します。
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参考文献
- 日本版敗血症診療ガイドラインにおける抗菌薬早期投与の考え方
- Surviving Sepsis Campaign ガイドラインの記載