「手足もしっかり動くし、しゃべれる。ただの頭痛だろう」。そう思ってトリアージした患者さんが、1時間後に急変する。
それが、くも膜下出血(SAH)の恐ろしさです。
麻痺が出るのは「最悪のケース」だけ
はっきり言います。SAHで麻痺が出るのは、出血が脳にまで食い込んだ最悪のケースだけです。
くも膜下出血は、その名のとおり脳の「表面側」で起きる出血です。手足を動かす神経の本体は、まだ壊されていないことが多い。だから歩けるし、しゃべれる。診察の受け答えだって、きちんとできたりします。
でも頭の中では、破裂した血管がかろうじて止血されているだけ、という状態が続いている。見た目の元気さと、頭の中の危うさが、まるで一致しない病気なんです。
「動けるから軽症」を、今すぐ捨てる
新人のころの私は、手足が動くかどうかばかり見ていました。麻痺がない、会話が成立する、歩ける。それだけで頭の中の重症度リストから外してしまう。あのショートカットの危うさを思うと、今でも背中が冷えます。
だから、突然の頭痛では「どれくらい動けるか」より先に「どう始まったか」を聞きます。
いつ、何をしているときに、痛みが始まったか。始まった瞬間を言えるような頭痛は、それだけで警戒対象です。診断も検査の判断も医師のものですが、「この方、発症が突然です。先に診てもらえませんか」と順番を動かす提案は、看護師にできる仕事です。トリアージの数分が、この病気では本当に命の分かれ目になります。
やむをえず待合室で待ってもらう場合も、置きっぱなしにはしません。受け答えの変化、嘔吐、痛みの増し方。座って待てていた人が横になっていたら、それはもう再評価の合図です。
歩いて入ってきた人が、歩いて帰れるとは限らない
救急の待合室で、いちばん忘れてはいけない一文だと思っています。
頭痛で受診を迷っている方も同じです。手足が動くから、しゃべれるから大丈夫——その理屈は、くも膜下出血には通用しません。突然の頭痛は、元気に見えても受診してください。
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参考文献
- 救急看護領域の標準的教科書における、くも膜下出血の重症度と初期対応の記載