心筋梗塞の波形に似ているからといって、安易に「心臓だけ」を疑わないでください。
胸が痛い。心電図を取ったら、Ⅲ誘導やaVFでT波がひっくり返っている。しかも右脚ブロック(RBBB)まで出ている。心臓のトラブルを疑いたくなる場面です。でも、そんなときに真っ先に疑うべきは、心臓ではなく「肺」かもしれません。
肺塞栓は、心電図に足あとを残す
肺塞栓症(PE)は、足などにできた血の塊が肺の血管に飛んで詰まる病気です。詰まると、肺へ血を送り出す右心室に急な負担がかかります。
この「右心にかかった急な負荷」が、心電図に足あとを残すことがあります。右側の心臓が悲鳴を上げているサインが、心筋梗塞に似た顔で出てくる。だから、下壁の心筋梗塞かと思って身構えた波形が、実は肺塞栓だった、ということが起こりうるわけです。
有名な「S1Q3T3」という所見もありますが、これは必ず出るものではありませんし、出ていなくてもPEは否定できません。心電図はあくまで手がかりのひとつ、というのが正直なところです。
「胸が痛い+息が苦しい」に、肺を足しておく
診断は医師と検査の仕事です。看護師にできるのは、心電図の一枚を「心臓しかない」と決めつけない引き出しを持っておくこと。
胸痛に加えて、やたらと息が苦しそう、酸素の値が上がりにくい、片方のふくらはぎが腫れている、長距離移動や手術のあとだった——そんな背景が重なったら、私は心の中で「肺も」と付け足します。そして、その気づきを医師に一言添える。
決めつけないことが、いちばんの武器
新人のころの私は、「T波が陰転している=虚血」と単純に結びつけて、それで満足していました。波形を一つの答えに閉じ込めてしまう。それがいちばん危ない読み方だと、今は思います。
似ているものほど、疑ってかかる。心電図を前にしたときの、この一手間を大事にしています。
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参考文献
- 循環器・救急領域の標準的教科書における肺塞栓症の心電図所見(右心負荷所見・S1Q3T3・右脚ブロック等)の記載