倒れている人が「息をしてる」ように見えたら、いったん疑ってください。
心停止の直後って、呼吸が完全には止まらないことがあるんです。しゃくりあげるように、あごだけで、途切れ途切れ。一見、息をしているように見える。
医療の現場ではこれを「死戦期呼吸」と呼びます。体が最後に絞り出している動きで、心臓はもう止まっています。
呼吸の形をした、呼吸ではないもの
あの動きは、口やあごが動いているだけで、空気はほとんど入っていません。魚が口をぱくぱくさせるような、いびきのような音を立てて数秒おきにしゃくりあげるような。「普段の呼吸」とはまるで違うのですが、目の前で人が倒れて気が動転しているときに、胸のあたりが動いていれば「息はある」と思ってしまう。それが普通の感覚だと思います。
そして「息がある」と思った瞬間、多くの人の手は止まります。救急車を呼んで、見守る態勢に入ってしまう。
「息があったので、見守ってました」
そう話す発見者の方を、責める気にはなれません。知らなければ、見分けられなくて当たり前なんです。
ただ、その見守りの時間は、そのまま「心臓が止まったまま、誰も胸を押していない時間」になります。だからこそ、この呼吸の存在だけでも知っておいてほしい。しゃくりあげるような呼吸は「まだ生きてるから待とう」のサインではなく、「いま始めるべき」のサインです。
見分けようとしなくて、いい
現場の人に見分ける責任を負わせたいわけではありません。むしろ逆です。
呼びかけても反応がなくて、呼吸が「普段どおり」に見えないなら、それで十分。119番に電話すれば、指令員が電話越しに「呼吸を見てください」「胸骨圧迫を始めてください」と一緒に判断して、やり方まで案内してくれます。迷ったら電話して、言われたとおりに動く。それがいちばん確実です。
「息をしているように見える」。この呼吸のいちばん怖いところは、その「ように見える」の部分です。見えても、疑っていい。それだけ持ち帰ってもらえたら、この記事の役目は終わりです。
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参考文献
- 救急蘇生領域の標準的教科書・市民向け救命講習テキストにおける死戦期呼吸(あえぎ呼吸)の記載