胸骨圧迫のリズム、私はいまだに「ぶんぶんぶん ハチが飛ぶ」で刻んでいます。
心臓が止まった人の胸を押すテンポは、1分間に100〜120回。数字で聞くと「なるほど」で終わるんですが、いざその場に立つと、秒針を見ながら数えている余裕なんてありません。だからみんな、体に染みついた曲でリズムを取るんです。
なぜテンポがそんなに大事なのか
胸骨圧迫は、止まった心臓の代わりに、外から胸を押して血液を送り出す処置です。遅すぎれば、脳に届く血流が足りない。逆に速すぎると、押したあとに胸が元の位置まで戻りきらず、心臓に血液が充填される時間がなくなって、一回に送り出せる量が減ってしまいます。
「強く、速く、絶え間なく」とよく言われますが、「速ければ速いほどいい」ではないんですね。ちょうどいい速さを、疲れてきても、動揺していても、保ち続ける。そのための道具が「曲」です。
現場は、それぞれの曲が流れている(頭の中で)
有名なのは「アンパンマンのマーチ」。私の職場でも先輩がこれ派でした。若い子は、私の知らない今どきの曲でリズムを取っているらしい。世代がそのまま選曲に出ます。
で、私だけひとり、蜂を飛ばしている。
童謡「ぶんぶんぶん」って、テンポが本当にちょうどいいんです。誰に教わったわけでもなく、新人のころの私が急変対応で頭が真っ白になったとき、なぜか出てきたのがこれでした。以来、心停止の胸を押すたびに、頭の中を蜂が飛んでいます。傍から見れば真剣そのものの場面で、本人の脳内は「お池のまわりに野ばらが咲いたよ」。この仕事、たまにそういうおかしみがあります。
一般の方に伝えたいのは、ここ
もし目の前で人が倒れて、119番の指示で胸骨圧迫をすることになったら。正確に数えようとしなくていいです。知っている曲、それも自分が口ずさめるくらい体に馴染んだ曲で、一定のリズムを刻み続けてください。
うまくやることより、止めないこと。救急車が着くまでのあいだ、あなたの手とその曲が、その人の脳と心臓を守ります。
蜂でも、アンパンマンでも。
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参考文献
- 救急蘇生領域の標準的な講習・教科書における胸骨圧迫のテンポ(100〜120回/分)と深さに関する記載