「お腹をめちゃくちゃ痛がるけど、CTは綺麗だね」
この言葉を聞くと、ER看護師は目付きが変わります。
頭に浮かぶのは、NOMI(非閉塞性腸間膜虚血)。小さな虫のノミではありません。腸の血管が詰まっていないのに、腸への血流が足りなくなって、腸が壊死に向かっていく病態です。
「詰まっていない」から、見えない
腸の血管がバチッと詰まる病気なら、造影CTで詰まった場所が写ります。ところがNOMIは、血管そのものは開いている。全身の血流が落ちたときに、体が生命維持を優先して腸への血流を絞ってしまう——詰まりではなく「兵糧攻め」で腸が虚血になるイメージです。
閉塞が見えないから、画像診断をすり抜ける。とくに初期は「CTは綺麗」という評価になりがちです。でもその画像の裏で、腸は着実に壊死へ向かっている。「所見がない=大丈夫」という思い込みが、いちばんの殺人鬼なんです。
画像より先に、患者さんが教えてくれる
ではどこで拾うか。手がかりは、目の前の患者さんです。
- 所見の乏しさに見合わない、強すぎる腹痛。この「釣り合わなさ」こそが警報です
- 鎮痛の指示を実施しても、痛みがぶり返す・むしろ強くなる
- 時間とともに、ぐったり感や様子のおかしさが増していく
CTは撮った瞬間の切り取りですが、看護師はその後の時間を連続で見ています。「検査では異常なしって言われたのに、この痛がり方はおかしい」。その違和感は、画像に写らない情報です。
「CTは綺麗でしたが」から始める報告
診断も次の検査の判断も医師のものです。私たちにできるのは、時間軸の情報を届けること。
「CTは綺麗と伺いましたが、痛みは強くなっています。様子も先ほどと違います」——結果を疑うのではなく、結果のあとの変化を足す報告です。異常なしの結果が出ると、現場全体がふっと安心モードに傾きます。その空気の中で「まだ観察を下げません」と言えるかどうか。
綺麗なCTは「今のところ写っていない」であって、「何もない」の証明ではない。痛がり続ける患者さんがいる限り、目付きは緩めない。それがこの病態から教わったことです。
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参考文献
- 救急・消化器領域の標準的教科書における、非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)の病態と、身体所見に乏しい強い腹痛への警戒に関する記載