「胸が苦しい」だけが心筋梗塞じゃないんです。
ドラマだと、胸を押さえてうずくまる。あのイメージが強すぎて、そうでない症状を「心臓じゃないだろう」と切り捨ててしまう。それが、救急外来でいちばん怖いパターンのひとつです。
意外なところに、痛みは出る
ERに運ばれてくる患者さんで、実は珍しくない「意外な初期症状」があります。
- 奥歯が浮くような痛み
- 左肩から腕にかけての、重だるい感じ
- 喉がギュッと詰まるような感覚
- 「胃が痛い」という、いつもと違う強烈な違和感
心臓の痛みは、胸のど真ん中にきれいに出てくれるとは限りません。あご、歯、肩、腕、みぞおち。心臓から離れた場所に症状が現れることがあります。「歯医者に行ったけど原因がわからない」「胃薬を飲んでも治らない」——その裏に、心臓が隠れていることがある。
放っておくと、数時間後に心臓が止まるリスクをはらんでいます。だからこそ、「胸じゃないから大丈夫」と本人が判断してしまうのが、いちばん危ない。
糖尿病のある人は、痛みが出にくい
もうひとつ注意したいのが、糖尿病を持っている人です。
長く糖尿病があると、痛みを伝える神経の働きが鈍くなり、心筋梗塞が起きても痛みをはっきり感じないことがあります。「なんとなくだるい」「食欲がない」「冷や汗が出る」くらいで、本来なら七転八倒するはずの人が、静かに座っている。
これを「元気そうだから軽症」と見てしまうと、取り返しがつかなくなる。私が問診で必ず糖尿病の有無を確認するのは、このためです。
「らしくない」訴えほど、耳を澄ます
看護師にできるのは、診断ではありません。でも、「歯が痛い」「胃が変だ」という訴えの奥に、冷や汗や顔色、いつもと違う雰囲気を感じ取って、心電図を早めにと動くことはできます。
教科書どおりの胸痛より、「らしくない」訴えのほうに、私はむしろ神経を使います。
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参考文献
- 循環器・救急領域の標準的教科書における急性心筋梗塞の非典型的症状および放散痛の記載
- 糖尿病における無痛性心筋虚血に関する記載