火災現場から運ばれてきた患者さん。顔はススだらけだけど、意識は清明。モニターをつけたら「SpO2 99%」。
「よし、酸素化は大丈夫です!」と報告した若手時代の私に、ERの先輩が放った言葉は「お前、殺す気か?」でした。
あの時は意味がわかりませんでした。でも、血ガスの「CO-Hb(一酸化炭素ヘモグロビン)」の結果を見て、血の気が引いたのを覚えています。
パルスオキシメータは、COを見分けられない
指にはさむあの機械は、光の吸収のしかたから「ヘモグロビンのうち、何かとくっついているものの割合」を推し量っています。問題は、くっついている相手が酸素(O₂)なのか一酸化炭素(CO)なのかを区別できないことです。
COが結合したヘモグロビンも「満席」としてカウントされる。だから、体は酸素を運べていないのに、モニターには99%が表示される。「史上最悪の偽り」がモニターに映る99%の正体です。しかもCOは酸素よりずっと強くヘモグロビンに居座るので、席はなかなか空きません。
「元気そう」も、あてにならない
このときの患者さんは意識清明でした。数値も見た目も大丈夫そう。それでも、火災の煙を吸ったという状況がある限り、私たちはCO-Hbの結果が出るまで安心しません。
数値がきれいなときほど、状況で疑う。火のそば、煙、換気の悪い部屋。モニターより先に、その人がどこで何をしていたかが、疑いの根拠になります。
数字は正しくても、読み方を間違えると嘘になる
これはご家庭でも同じです。火事の煙を吸ったあと、換気の悪い場所で火や炭を使っていたあとに、頭痛や吐き気、だるさがあったら、家庭用のパルスオキシメータが良い数字でも安心の根拠にはなりません。元気そうに見えても受診してください。
「モニターの数字は嘘をつかない」と教わってきました。あの日以来、こう言い直すことにしています。数字は嘘をつかないけれど、読み方を間違えた人間は嘘をつくことになる、と。
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参考文献
- 中毒学・救急医学領域の標準的教科書における一酸化炭素中毒とパルスオキシメータの限界に関する記載