「ATP投与、怖くないですか?」
新人のころ、先輩にそう聞いたことがあります。あれ、じつは「準備」で8割決まります。爆速で効かせて、爆速で消える薬だからこそ、打つ瞬間より、その前の段取りがすべてなんです。
なぜ「準備」が命なのか
ATPは、体の中でものすごく短い時間しか効きません。効くのも一瞬、消えるのも一瞬。だから、注射器から押し込んだあと、間髪入れず生理食塩水で後押しして、一気に心臓まで届けきる必要があります。ここでモタつくと、薬が届く前に効果が消えてしまう。
つまり、「注射する」より「注射したあとの一連の流れ」を、体が勝手に動くくらいまで頭に入れておくことが大事になります。慌ててから手順を思い出しているようでは、間に合いません。
ER直伝の、投与前チェックリスト
先輩から教わって、いまも投与前に頭の中で必ずさらう項目がこれです。
- 三方活栓の向きを、脳内でシミュレーションしておく
- 20mlの生理食塩水をセットして、すぐ後押しできる状態にしておく
- 末梢ラインに漏れがないか、最終確認する
- DC(除細動器)をスタンバイしておく
三方活栓の向きひとつ間違えれば、薬もフラッシュもどこにも届きません。ラインが漏れていれば、せっかくの一瞬が無駄になる。DCを準備しておくのは、投与に伴って一時的に脈が乱れる場面に備えるためです。どれも、慌ててからでは間に合わない準備ばかりです。
投与の指示は医師、準備は看護の腕の見せどころ
大前提として、ATPを使うかどうか、いつ打つかを決めるのは医師です。私たちの仕事は、その指示がいつ出てもいいように、場を完璧に整えておくこと。
この準備が体に染みついていると、いざ「いくよ」と言われたときに、多少は気が楽になります。怖さは、段取りの数だけ小さくなる。薬そのものではなく、自分の準備を信じられるかどうか。そこが、この投与の分かれ目だと思っています。
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参考文献
- 循環器・救急領域における発作性上室頻拍に対するアデノシン三リン酸(ATP)投与に関する標準的な成書の記載