「お酒を早く抜くために点滴して!」——救急外来で、本当によく聞くお願いです。実はこれ、医学的にはほぼ「迷信」なんです。
気持ちはわかります。つらいときに点滴をしてもらって、すっと楽になった経験のある人ほど、点滴には「効く」イメージがある。責められるような話ではまったくありません。ただ、アルコールに関しては、点滴は思われているような働き方をしません。
アルコールは「洗い流せない」
- アルコールの9割は、肝臓で代謝される
- 尿(腎臓)から出ていくのは、わずか数%
- 点滴をしても、肝臓の分解速度は1ミリも上がらない
つまり、点滴でアルコールを「洗い流す(Wash out)」という概念そのものが幻想です。輸液を増やして尿をたくさん出しても、そこから出ていくのはもともと数%の経路だけ。酔いの本体である血中のアルコールは、肝臓が自分のペースで分解し終えるのを待つしかありません。「点滴すれば酔いが早く覚める」は、医学界ではすでに否定されている古い常識です。
じゃあ、点滴は無意味なのか
そうとも言い切れません。吐き続けて水分が取れていないとき、脱水が進んでいるとき、血糖や電解質に心配があるとき——アルコールそのものを抜くためではなく、酔いで崩れた体の状態を支えるために、医師の判断で輸液が必要になる場面はあります。目的が「酔い覚まし」ではなく「体を守ること」に変わるだけです。
現場で伝えていること
「点滴をしてもお酒は早く抜けないんです。今は体の状態を見て、必要なことをしていきますね」。私はこう説明するようにしています。期待には応えられなくても、理由と、いまやっていることの意味は伝えたい。
酔いを覚ます特効薬は、今のところ時間だけです。水を飲んで、安全な場所で、回復を待つ。地味ですが、これが正解です。ただし、呼びかけに反応しない、吐いたものが喉に詰まりそう——そんな様子があれば、それは「寝かせて待つ」場面ではなく、救急要請の場面です。
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参考文献
- アルコールの代謝経路と急性アルコール中毒の対応に関する救急領域の標準的教科書の記載