「頭ぶつけたけど、その場では何ともなかったから大丈夫」。これ、救急で地味にこわいパターンのひとつです。
3週間〜3ヶ月後に、じわじわ来る
慢性硬膜下血腫という病気は、頭を打った「直後」ではなく、3週間〜3ヶ月くらい経ってから、じわじわ症状が出てくることがあります。
頭を打った拍子に、脳を包む膜の内側で細い血管が傷つき、少しずつ、本当に少しずつ血がたまっていく。たまった血が脳を圧迫するほどの量になるまでに、週や月の単位がかかる。だから「打った日」と「おかしくなった日」が、まるでつながって見えないんです。
本人もご家族も、外傷と結びつかない
しかもこの病気、本人は「そんなに強く打ってない」「転んだのなんて1ヶ月以上前」ということが多いんです。タンスの角に軽くぶつけた、駐車場でしりもちをついて後頭部をコツン。その程度の、本人の記憶からほぼ消えているような出来事が発端だったりします。
だから受診のきっかけも、「最近歩き方がおかしい」「ぼんやりしていることが増えた」「急にもの忘れがひどくなった」といった、頭のケガとは無関係に見える相談になりがちです。ご家族が「歳のせいかな」「認知症が始まったのかな」と解釈してしまうのも、無理はありません。
「打った話」は、こちらから聞かないと出てこない
救急外来で私たちが問診するとき、この病気を念頭に置くなら「最近」ではなく「ここ数ヶ月で」頭を打ったことがないかを聞きます。本人が覚えていなければ、ご家族に。「そういえば春先に転んだわね」の一言が、道筋を一気に変えることがあります。
逆に言うと、ご家族の側から「1ヶ月前に転んでいます」と教えてもらえたら、それは最高の情報です。関係なさそうに思えても、ぜひ伝えてください。
忘れたころの変化こそ、受診の理由に
頭を打った直後に受診して「大丈夫」と言われても、それで一生安心という意味ではありません。数週間から数ヶ月のあいだに、歩きにくさ、ぼんやり、性格が変わったような様子、頭痛。そういう変化が出てきたら、「あのときの打撲は関係ないだろう」と自分で判断せず、受診してください。
打った瞬間より、忘れたころ。この病気の時間の流れは、普通のケガの感覚と逆向きです。
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参考文献
- 脳神経外科・救急医学領域の標準的教科書における慢性硬膜下血腫の記載