くも膜下出血の患者さんが運ばれてくると、私たちはまず部屋を真っ暗にします。
新人のころ、これを「安静のため」だと思っていました。つらい状況だから、せめて静かに休ませてあげる。そういう思いやりの延長だと。
違うんです。あの暗さは、命を守るための処置です。
かさぶた一枚で持ちこたえている
破裂した動脈瘤は、運ばれてきた時点では「いったん血が止まっているだけ」の状態です。傷口に乗っているのは、薄いかさぶた一枚。
光も音も、その人にとっては全部が刺激になります。刺激で血圧が上がる。血圧が上がれば、そのかさぶたが耐えきれずにまた破れる。これが再出血です。
数字で見ると、怖さがわかる
- 再出血がいちばん起こりやすいのは24時間以内。報告により幅はありますが、十数%前後とされます
- 特に危ないのは最初の6時間。ピークは2時間以内
- 再出血した場合の死亡率は、報告により50〜80%。いずれにしても、予後が極端に悪くなります
「最初の6時間」って、つまり救急外来にいる時間帯のことです。私たちの目の前にいるあいだが、いちばん危ない。ここで血圧をはねさせない看護が、そのまま命を守ることに直結します。
抑える刺激は5つ
光、音、接触、情動、疼痛。現場でやることに落とすと、こうなります。
- 光:ペンライトは斜め下から1秒だけ。照明は最小限に
- 音:モニターのアラーム上下限を今の値に合わせて再設定。声かけは小声・低めのトーンで
- 接触:処置はまとめて行い、体位変換や吸引は必要最小限に
- 情動:面会は短く、小声で。家族の動揺も刺激になるので、声のかけ方から整える
- 疼痛:頭痛は我慢させない。医師の指示の鎮痛薬を早めに、定期的に
新人のころの私は、意識レベルを確認しようとしてペンライトを正面からじっくり当てるタイプでした。良かれと思ってやっていることが、引き金になりうる。この仕事の怖いところだと思います。
申し送りで残すのは、この2行
- 最後に頭痛が増悪したのは何時か、今の痛みは何点か
- 最後に血圧の上(収縮期血圧)が目標を超えたのは何時か、今はいくつか
血圧の目標値は施設のプロトコルによります(収縮期140mmHg未満を目安にする施設が多い印象です)。この2行があるだけで、CT室やICUに引き継いだあとのチームが次の一手を打てます。
「暗くする」は目的じゃない
血圧をはねさせないための、手段のひとつ。そう理解してからは、部屋を暗くする手が少し変わりました。カーテンを引く、アラームを整える、声を落とす。ぜんぶ同じ目的でつながっている看護です。
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参考文献
- 日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』
- AHA/ASA Guidelines for the Management of Patients With Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage (2023)