子どもの咳が、急に犬の「ケンケン」という音に変わったことはありますか。
夜の救急外来には、その音の子が運ばれてきます。たいてい、一番青ざめているのは子どもじゃない。抱っこしているお父さん、お母さんの方です。あの音、初めて聞くと本当に心臓に悪いんです。
なぜ犬みたいな音になるのか
風邪のウイルスで、喉の奥——声帯のあたりが腫れて、空気の通り道が細くなる。細いところを空気が通るから、あの独特な「ケンケン」「オットセイみたいな咳」になります。クループと呼んでいる状態です。声がかすれるのも同じ理由。
夜に悪化しやすいのが特徴で、日中はケロッとしていたのに、深夜に突然あの音で泣き出す。だから救急外来に来るのは、だいたい夜です。
私たちが見ているのは、咳の派手さじゃない
ケンケンという咳そのものは、実は重症度の物差しになりません。私たちが真っ先に見ているのはこっちです。
- 吸うときの音:泣いていない安静時にも「ヒューッ」という音がしていないか
- 呼吸のしかた:鎖骨の上や胸がへこむ呼吸(陥没呼吸)をしていないか
- よだれと飲み込み:よだれを飲み込めずに垂らしていないか、水分を取れるか
- 機嫌と活気:あやせば泣き止むか、ぐったりしていないか
咳が派手でも、泣き止んで水分が取れて、安静にすれば音が消える子は、多くの場合そこまで切迫していません。逆に、静かにしていても吸気の音が続く、呼吸のたびに胸がへこむ、ぐったりしている——このあたりが揃うと、私たちの動きが変わります。
家でできること、してほしくないこと
腫れている気道に一番よくないのは、激しく泣かせることです。泣くと腫れたところに負担がかかって、余計に狭くなります。抱っこして、落ち着かせて、本人が楽な姿勢のままにしてあげてください。無理に横に寝かせなくて大丈夫です。
ただし、ひとつだけ例外があります。よだれを飲み込めずに垂らしている、高熱でぐったりしている——このときは「落ち着かせて様子を見る」を挟まず、すぐに受診してください。クループによく似た別の病気(急性喉頭蓋炎など)で、一刻を争う気道の緊急事態のことがあります。
それ以外でも、安静にしても吸うときの音が消えない、呼吸で胸がへこむ、顔色が悪い。そのときは夜中でも受診してください。「こんな時間にすみません」って謝るご家族が多いけど、その判断はむしろ正しいです。
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参考文献
- 日本小児科学会・小児救急領域の標準的教科書におけるクループ症候群の記載